コラム
最近の油性ボールペン
最近はゲルインキボールペンが増えてきましたが、油性ボールペンはまだまだ、筆記具の主役です。筆記具の技術水準は年々向上し、油性ボールペンも、一昔前とは比べ物にならないほど、スラスラと濃く滑らかに書ける様になりました。ところが、ここ最近、油性ボールペンのインキがボタ落ちするというクレームをちょくちょくいただきます。又、買って間が無いのに突然書けなくなったという話も聞く様になりました。「書き易いペン下さい!」と言うお客様の次に多いのが、「インキかボタッと出ないペン無いの?」というご要望です。インキのボタ落ちなど、20年以上前に言われた問題で、とっくの昔に解決済みなのに?と最初は半信半疑でした。しかし、最近自分も筆記中にインキが出過ぎて手や紙が汚れたり、突然書けなくなったりすることに気づき、幾つかのメーカーさんに確認してみました。
書けなくなる現象については、「再生紙の普及によって紙の質が低下した為、云々」とか、「筆記時にペン先付近で発生する静電気により、質の悪い紙の紙粉が吸い寄せられ、ボール付近が目詰まりする為、云々」という感じのご意見が返ってきました。要は「メーカーの責任じゃないですよ!」ということでしょうか。一方、ボタ落ちの方に関しては「ウーン。そうですかー」「・・・・」みたいな答え!?しか返って来ませんでした。昔言われていた「ボタ落ち」とは違うのかもしれませんが、インキが出過ぎたり、糸を引く様に飛び散ったりするのは確かで、多くのお客様が気にしています。書けなくなるのも特に変わった紙を使っている訳でもないし・・・。ユーザーとしては納得できませんよね!やっぱり、ボールペン自体に問題があるのでは?
そこで、私が個人的に考えていることですが、約10年ほど前、ある大手筆記具メーカーが発売した油性ボールペンが発端となっているのではないか、と思うのです。その油性ボールペンは従来のインキを大幅に改良し粘性の低いサラサラの書き味で話題を呼び、大ヒット商品となり今日まで高い評価を得ています。この商品があまりに人気となった為、その後数年かけて他のメーカーも油性ボールペンの粘性を下げる改良を施しました。同時に、ゲルインキボールペンの人気が益々高まっていたことから、油性ボールペンもその書き味をどんどん滑らか志向に変化させて行きました。結果、インキの粘性が下がって書き味は向上した代わりに、流動性の増したインキが出過ぎたりするのではないでしょうか。
ある筆記具メーカーの営業さんは、「粘性が低い最近のボールペンは、ペン先にボールを取り付ける”カシメ”という工程が精密にしっかり施されていないと問題が起こりやすい」、「(ボタ落ちが起こるのは)ボールとチップ(ペン先部分)に使われている金属同士の相性が悪いのではないか」とおっしゃっていました。幾つかのメーカーでは、低粘度、サラサラ路線から回帰し、適正な粘性を探る動きもありますが、ボタ落ちの解決には至っていません。再生紙の普及等も多少影響はあるかもしれませんが、、一番の問題は、粘性の低い新型インキに対して、ペン先部品の設計、加工技術が伴っていないのが原因ではないかと考えます。これは、メーカー各社の開発努力にお任せするしかありません。
そうすると、にわかに懐かしくなってくるのがインキは少々固いけどボタ落ちが少ない一昔前のボールペンです。注目はやはりクロスやモンブランといった舶来品です。海外メーカーは幸か不幸か超精密技術では日本に遅れを取っていた為、現在でも昔ながらの書き味を堅持しています。正確にはこれらの商品も常に改良されているのですが、日本市場で起こった様な劇的な粘性変化を与えず自社の書き味を堅持しています。クロスやモンブランは根強いファンが存在して、その独特の書き味には定評があります。日本の文字に適さない!などの意見が出たこともありますが、改めて使ってみるとかなりお奨めです。パーカーは、前述の2社とは性格が違い、ある意味日本的な書き味ですが、適度に手応えがあり好感触です。これらの製品は高級品主体で替芯も高価なのがネックですが使ってみる価値は十分あります。
元々、海外では水性ボールペンの人気が高く、油性ボールペンとは、はっきり住み分けができているのだと思います。だから滑らかな書き味は水性やゲルに任せて、油性は油性で独特の路線を継承する!この考えが正解なのだと思います。実際のセールスからは、「やはりサラサラのボールペンが良い!」という消費者の声が現れている為、メーカーとしても現在の路線を維持しているのだと思いますが、私は近い将来日本の油性ボールペンが再び固いインキを搭載してくるのではないか、と考えています。
勿論、サラサラのインキでボタ落ちしないものが開発されれば最高ですが、油性ボールペンの一つの方向性として、この原点回帰は有意義だと思うのですが・・・。最近は替芯に特殊なガスを充填した加圧式や、インキの顔料成分を増やして濃く書ける様にしたものなど、続々と新製品が出ていますが、余分なインキが出て紙を汚すという問題点はそのままです。メーカー各社はこれを無視せず改良に取り組んでもらいたいと思います。皆さんはどの様にお考えですか?ご意見等ございましたら是非お聞かせください。
2004年06月05日 藤井稔也