2,000本の万年筆コレクション


 最近、色々と仕事が重なり、コラムの掲載ペースが乱れております。
 さて、私はこの日曜日に、あるお客様からお誘い頂き、2,000本もの万年筆を所有する日本有数のコレクター、O氏のコレクションを拝見しに愛知県まで出かけてきました。誘って下さった方も、数十本の万年筆を所有する、かなりの万年筆愛好家です。O氏のお宅には、私達2人の他に、地元愛知の男性1人と女性1人がお見えになっていって、私を除く4人全員が万年筆クラブと言う全国的な会の会員さんで、その筋ではかなり知られた万年筆マニア!?の方々だそうです。

 O氏のお宅に入ると、おびただしい数のインク瓶(貴重なビンテージ品ばかり)や昔の万年筆看板、店頭ディスプレー等が飾り付けられており、いきなり圧倒されてしまいました。実はスミ利に残る古い万年筆メーカーの商品パネルを幾つか買いたいということで、当日持参したのですが、これらもO氏コレクションの仲間入りをすることになりました。万年筆や筆記具にとどまらず、古い看板やディスプレー小物、販促グッズなど全般的に収集されていると言うことで、懐かしい品や、見た事もない古いものが所狭しと並んでいました。

 他の皆さんは、以前にもO氏コレクションを見たことがあるということで、私だけ別室を案内していただきました。そこにはO氏が永年かかって集めた万年筆の店頭ディスプレーがゴロゴロ!よくこんなモノが出てきたなと感心しました。そして、万年筆を作る足踏み轆轤(ろくろ)まで設置されているではないですか!ちゃんと動く状態で、各種刃物や工具も揃っており、O氏は古い万年筆の修理(分解)用に大変重宝しているとおっしゃっていました。O氏曰く、「轆轤を2台持っている人はいないはず・・・」。1台でも持っている人はいません!!

 続いて、本題の万年筆に。今も増殖中で、約2,000本あると言うとてつもないコレクションです。「先ずはモンブランから・・・」と40本以上並べられるペン皿が次々に運び込まれてきました。モンブラン、ペリカン、パーカー、ウォーターマン、シェーファー、オノト、パイロット、プラチナ、セーラー、各社蒔絵、etc. 殆どが現行品ではなく最低でも30年以上前のいわゆるビンテージ物です。世界の一流メーカー品から既に現存しないメーカーの品まで、貴重な品がズラリ!正に「無いものは無い!」状態でした。特に蒔絵万年筆のコレクションは圧巻で、昭和初期の伝説的な万年筆、「ダンヒル・ナミキ」(現パイロット社の前身、並木製作所が製作し、英ダンヒル社が販売した超高級蒔絵筆記具。)の実物が!しかも1本や2本ではない!

 万年筆以外では、早川式繰り出し鉛筆(現シャープ社の創業者、早川徳次さんが作ったシャープペンシルの元祖)のオリジナルもあり、すぐにでも万年筆博物館が作れそうなコレクション内容でした。更に、同席された方々も、現在入手困難な限定万年筆や、職人による一点物の特注万年筆など、マニアっぷりを遺憾なく発揮する自慢のコレクションを持ち寄られており(こちらもかなりの数!&値段!!)、この日一日で一体何本の万年筆を見たことか!最後の方は、万年筆酔いで頭がくらくらしましたが・・・。

 滅多に見られないものを見ることができ、とても充実した1日となりました。「半端じゃないマニア」の方々にお会いできたのも貴重な経験となりました。それにしても、マニアと呼ばれる方々のパワーは実に恐ろしい(笑)ですね!金銭的なことも勿論ですが、何よりもパワフルな人間でないと、マニア(コレクター)は務まらない様です。発想と行動力が違います。「Oさんが亡くなったら、このペンは私が・・・!」などという4割冗談、6割本気!?の会話が本人を前に繰り広げられたりします。最近は雑誌などの影響もあり、普通の人達がマニア化してきていると思います(本人達は頑なに否定しているが・・・笑!)。確かに、マニアの要求は、良い物が生まれる原動力にもなっていますし、万年筆の復権にも薄っすら期待が!

 でも、最近の万年筆市場は、ちょっとマニア向けのウエイトが大きくなり過ぎている気がします。いくら売上げが少なくなっても、やっぱり一般ユーザーの存在は大切だと思います。一般向け商品のレベルが上がっていかないと、本当の意味の進歩とは言えません。一般のお客様で万年筆を使う方は確かに少なく、「万年筆を売っていくのも大変でしょう」とよく言われます。確かに、今後どう頑張っても昔のように万年筆が普及することは有り得ません。でも、それはそれで仕方のないことです。売る方としては、お金も掛かって大変ですが、一旦やめてしまうと、もうそれっきりですので、少しでもお客様がいる限りは、肩肘張らずに万年筆販売を続けていきたと思っています。

 私は仕事で万年筆に関わっているので、「集める」という感覚は希薄ですが、今回の訪問で「この万年筆いいなー」と思うものが沢山あり、ついつい万年筆を買ってしまうという人達の気持ちもよく分かりました。日頃、販売者としての立場では気付かないことを色々と考えさせられた1日でした。



2004年7月5日  藤井稔也


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