コラム   万年筆旅行を終えて、文具メーカーのカタログに一言!


またまた久しぶりのコラムとなってしまいました。実はこの5月、6月はあちこちに出かけることが多く、実に忙しい日々でした(勿論仕事で出かけることもあるにはあったんですが・・・たまには商売もしろよ!と言われそうです)。

その中でも、6月はじめにある方からのお誘いを受け、その方と2人で静岡と神奈川に「万年筆旅行」に出かけたのはとても印象深い出来事となりました。静岡では先ず、こだわりのエボナイト軸万年筆を手作りされている方と日本平のパーキングで初めてお会いしました。最初はお互い同業者(と言ってもこの方は職人であり技術者ですので、私などとはレベルが違います。「売る」という点で同業者ということで・笑)ですので、多少緊張(この業界、意外とヨコのつながりは無くて、普段はあまり同業者と話す機会が少ないものです)していたのですが、お話を聞くうちに、その方のものづくりへのこだわりと情熱が伝わり、色々なお話を聞かせていただくことができました。私よりも何歳か年上でまだお若い方なのですが、物造りに対する確かな知識と技術、自分の品物への責任感の強さに、私はすっかりファンになってしまいました。実際は、職人としての物造りと販売とを、お一人でされているので、色々とご苦労されている点も多い様です。私は学生時代に、奈良の筆職人さんとお会いして、色々なお話をうかがったことがあるのですが、その時と似た印象を受けました。日本にもこんな人がいるのか!と素直に感動しました。

また、静岡ではこのあと、万年筆ばかりか、往年のポスターやディスプレイ、各種販促グッズなどを広範囲にコレクションされている方のお宅にお邪魔させていただき、あつかましくもそこで一泊させていただきました。この方のお宅はもう、専門の博物館状態でいつでもお金をとってお客を入れられそうなコレクションの充実ぶりでした!私が子供の頃店にあった様な販促グッズや小物がいたるところにセンス良く並べられており、一度足を止めたらなかなか離れられない状態。ポスターや各種販促グッズ、紙物資料などは、用が済めば捨ててしまわれるものが殆どですので、ここまで収拾されるには金銭的なこと以外にも相当なご苦労があったと思います。それらコレクションが美しい状態で保管されていることは万年筆や文具の歴史を知る上でとても意義深いものだと関心しました。また奥様も珍しい万年筆を沢山持っておられて、最近は私がホームページでご紹介したフォルカンの万年筆について非常に関心を持っておられるとのこと。その晩はついつい遅くまで万年筆の話題で話し込んでしまいました。

静岡で一泊させていただいたその翌日、今度は神奈川にお住まいの某万年筆メーカーOBの方を訪問しました。我々がお邪魔すると言うことで、奥様が色々とお料理(プロ並み、いやプロ以上!?)を準備していただいていたのですが、私は当日まで詳しいことは何も知らずにのこのことお邪魔してしまったのでびっくりでした。こちらでは私も知らない万年筆に関するお話や貴重なコレクションを見せていただき、色々なことを教えていただきました。ご自身では「私はコレクターではないつもり」とおっしゃっていましたが、欲しい人が見たらのどから手が出るほどの品物ばかり!勿論、メーカーOBと言うことで、役得!?で手に入れられたものも有りましたが(笑)、それ以上に凄いのは「ユーザーの気持ちを理解するために買った」と言う蒔絵の高級品や、大半を退職後に探しまわって収集したという数々のコレクション。コレクションの大半は、メーカーOBというだけ有って、ある製品の技術変遷を追った「技術資料的」なものが目立ちました。その辺りが普通の万年筆コレクターとは一味違うこだわりだと思いました。

さてさて、こんな具合にして万年筆旅行をしてきた訳ですが、ここに登場される方々は今回あえてお名前を出してはいませんが、雑誌などのメディアでも度々登場される有名人ばかり(お気づきの方も多いはず)。普段は私の様な文具店(売る立場)の人間とはなかなか話す機会が無いとおっしゃっていましたが、私も同様で万年筆のユーザーにこんな世界があることを全く知りませんでした!私が普段お会いする万年筆好きの方々はその殆どが「私はマニアではないので・・・」「私はコレクターではないので・・・」「私はコレクターではなくユーザーのつもりです・・・」・・・等と、口々におっしゃいます(笑)。でも、総じてそんな方々は「マニア」であり「コレクター」でもあるんですよね(笑)!で、私は何もコレクターやマニアであることが悪いことだとは思わないし、そんな風にいちいち他人に対して断って万年筆と接する必要も無いと思うのですが・・・。自分が好きなように万年筆を好きでいればそれが一番良いのでは?万年筆を使わずに集める人(コレクター)と、万年筆を使う人(ユーザー)のどちらが偉い、とかも無いと思います。よく「使ってこそ価値がある」等と言いますが、別に集めたい人がいればそれもそれで「価値がある」のでは無いかと思います。

この旅行のときも何度か「スミ利さん(藤井さん)は、コレクションすることとかには興味は無いの?」と聞かれましたが、私自身は日頃どちらかと言うと商売として万年筆に接しており、売ることの方に苦慮していますので(笑)、「そうですね、いまのところコレクションを形成するにはいたっていませんねー」なんて答えていました。でも、ちょっと考えてみると、店のショーウィンドウに並んだ万年筆や高級筆記具も実は私のコレクションといえるんじゃないかなーなどと・・・。それに、昔の(親父の)売れ残りの膨大な数の万年筆や筆記具は悔しくて腹立たしくて見るのも嫌ですが(笑)、捨てずに残してありますし・・・。実は「コレクターではないですよ!」と言っておきながら私が一番コレクターだったのかも!?と感じる今日この頃です(笑)。

今回、色々な人とお話して、万年筆や文具と言う物は、非常に語れる部分が多いものだと感じました。万年筆好きが何人か集まればすぐに万年筆の話で盛り上がれる、人それぞれ独特の意見や知識が次々に披露される。そして、知れば知るほどまた次々と新たな謎や発見がある・・・。それは今回沢山見せていただいた昔の製品ばかりでなく、今普通に販売されている現行品に対しても同様です。例えばパイロットのカスタムという万年筆ひとつとっても、ユーザーが疑問に思うことや、知りたいことが色々と隠れているものです(最近スミ利の掲示板でも話題になっていましたよね)。また、この旅行では各メーカーの古いパンフレットやカタログ、広告をみる機会が多々ありましたが、どれも自社製品の優位性を知らしめようと努力した痕跡が・・・。つまりメーカーがユーザーや販売店に対して語っているのです。これは私にとっては新鮮に感じました。

そこで、私が常々思っていたことと繋がるのですが、どうも最近の文具メーカーさんは、「自社製品に対して熱く語ることをしなくなった」、と思うのです。それはユーザーに対してばかりか、販売店にも社内の営業マンにも、です。そう感じる最も顕著な例として、メーカーが毎年発行している商品カタログが上げられます。例えばこの場合はパイロットさんのカタログを引き合いに出してお話しましょう。これは何もパイロットさんを悪者にしているのではなく、私が日頃からパイロットと言う企業に大いに期待しているからですので、誤解のなきように! パイロットのカタログはお店に備え付けられているものですので、ユーザーさんは普段あまり目にする機会が少ないかも知れません。私の感じとしては、他の文具メーカーよりも情報量が多く、なかなか勉強になるカタログだと思っています。しかし、基本的な内様としてはパイロット社のホームページに掲載されている商品情報と殆ど変わりない内様です。パイロットのホームページをご覧になった方はお気づきかも知れませんが、商品案内は解像度の低い写真と、必要最低限の情報(価格や品番)しか掲載されておりませんね。つまり、その商品がどんな製品であるかということには一切触れられていないのです。あれでユーザーに何を伝えようとしているのか・・・。

例えば、私が不満に思っていることの一例を挙げると、パイロットの万年筆カスタム742とカスタム743にラインアップされているフォルカンと言うペン先。スミ利のホームページでもご紹介しましたが、フォルカンの様な特徴的なペン先を発売するにあたって、何故もっと詳しい解説がなされないのかが疑問です。語ろうと思えばこれほど熱く語れる製品も無いと思いますが・・・。当然ながら発売に当たっては社内で様々な議論や検討がなされたはずですが、その光景がユーザーや販売店に見えてこない。つまり、何を意図して上市したのか、どんなユーザーに使って欲しいのか、見えてこない・・・。現在のカタログやパンフレットでペン先を紹介した部分にはフォルカンを「超ソフト調。毛筆の筆跡」などと訳のわからないことがちょろっと書いています。 因みに昔のフォルカンペン先の説明書には「軽妙なる細字を書し大衆向けとして最適」とあります。今と昔では万年筆に対するユーザーの要望も異なったでしょうし、当然フォルカンの説明文も違って当然だと思いますが、何を持って「毛筆の筆跡」と言ったのか・・・。今は万年筆を知らない人も多い世の中ですので、なおさらユーザーや販売店に対して企業としてのメッセージをしっかりと出すべきではないでしょうか? 単に、試筆して決めてもらえれば・・・、と言うことで済まさないでいただきたいです。こんな時代でもお客様に万年筆を買っていただきたいと思うなら、その気持ちをもっと表現しても良かったのでは?

現在のフォルカンの解説  現在のパイロットカタログ
これが最近のパイロットのカタログ内様です。


昔のフォルカンの解説
昔のフォルカン・ペン先の説明

また、カスタム742とカスタム743と言う万年筆は良く似た外観でそれぞれ2万円と3万円の違いがあります。これらを比較する場合でも、現状は「2万円か3万円か、ユーザーがお好みで決めてください」といったスタンスだけです。メーカーとして742と743にそれぞれどんな思いを込めているのか、メーカーとしてこの2種類の違いをどう認識しているのか・・・。お客様が購入される時の判断材料となる情報をもう少し提供するべきではないかと思います。実は、同じフォルカンのペン先でもカスタム742とカスタム743とではそのタッチが異なります。サイドのえぐりこみとペン先サイズの関係上、カスタム742の方がよりしなりやすく、軟らかいタッチと言えます。こんな点もメーカーが言葉にしても良いのではないかと思います。あとはそれこそ、ユーザーが試筆や実用の上、良し悪し、好みを決めるだけです。

万年筆に限らず、昔のクルマやバイク、オーディオ、家電製品のカタログや取り扱い説明書を見てみると、メーカー(開発者!?)が実に熱く語っていることに気付きます。「しゃべり過ぎだよ!(笑)」とも思えるほど、その製品に対して語っているものもあります。「こんな思いで、こんな良い製品を作りました!みなさん買ってください!!」という、ユーザーや販売店に対してその製品を知ってもらおうとする必死な姿勢がすがすがしく思えます。私の持っている30年ほど前の某オーディオメーカ製ラジオの取り扱い説明書に至っては、実際に買って箱を開けたお客さんを思い浮かべて書いたとしか思えない細やかなアドバイスや豆知識が加えられており、「優しさ」や「親切さ」を感じます。今は、文具に限らず、どこの業界のカタログも、責任逃れの講釈ばかり(禁止事項や免責事項の表記は充実している)で、余計なことは一切省略、必要な情報も最低限。語らないのがカッコいいとでも思っているのでしょうか?「口はタダ」使わないと損だと思いますが(私はしゃべり過ぎですが)。 なんにしても近頃の企業は言葉を尽くして相手に伝えようとする努力が足りていないのではないかと思います。また、個性、個性と言っておきながら、会社の個性を出すことを非常に恐れている気もしますね。キャッチコピーだけじゃなく、きちんとした文章が欲しいところです。

私に言わせると、今のカタログは非常につまらない。単に販売店が発注する際の「品番確認の道具」になってしまった気がします。商品そのものを知る教科書としての価値が著しく低下していると思います。近頃、万年筆を売る販売店のレベルが下がった、などとおっしゃる方もおられます。確かにその通りかも知れません。私も自信がありません。ただ、そんなマニアックな知識や高度な技術を持っていなくても、メーカーがカタログで教えてくれる情報を今よりももう少しだけでも知っていれば、それだけで随分と違ってくるのではないかと思います。そんな小難しい知識や技術が無ければ万年筆を売ってはいけない!となるほうがよほど問題だと私は思います。そんな時、カタログが重要になってきます。現状はお店の人間でも商品に対して一歩踏み込んだ情報を得ることが難しい状況です。それどころか、メーカーの営業マンにすら充分な情報が提供されていないと感じることも・・・。だからお客様に対してもしっかりと説明できない、アドバイスできない・・・。私自身、売っていてそう感じることが多々あります。

今回はパイロットさんの万年筆を引き合いに出しましたが、他のメーカーさんや万年筆以外の製品についても全く同様に、メーカーがカタログ等を通じて熱く語ってくれることを期待しています。何もメーカーさんの企業秘密に関することや、細かな点まで全て公表せよ、とは言っていません。要は言葉を尽くして理解してもらおうとする姿勢をもっと見せて欲しい、ということです。ひょっとすると今は、カタログやパンフレット等もメーカーさん自身では無く、広告代理店等に製作を任せているのかも知れませんね。ただ、そんな場合でもメーカーとして、開発者としてせっかく作ったものだから、少しでも言葉を惜しまずにやってもらいたいものです。販売店や営業マンにに対しては、カタログ以外に「自社製品の教科書」を作るくらいのことも考えていただきたいですね。そこから受けるユーザーのメリットも大きいと思います。


2007年6月27日  藤井稔也



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