コラム パイロット社製インキ止め式万年筆の操作方法


1月からブログを立ち上げたこともあり、かなり久々のコラムのアップです(汗)。 今回は、パイロット社製のインキ止め式万年筆の操作方法について書いてみます。 実は、「親が持っていたパイロットの万年筆を譲り受けたので自分が使いたいが、普通の万年筆と違う様で全く使い方が分からない・・・」と言ったご相談をこのところ続けて何件かいただきました。 聞くとかなり大型の万年筆でどうも漆塗りの高価なものらしい・・・とのこと。 デジカメの写真を送っていただき拝見するとそれは、パイロット社が以前販売していた大型の漆塗り万年筆であったり、現在パイロットがナミキブランドで販売している漆塗りや蒔絵の万年筆、つまりインキ止め式の万年筆であることが分かりました。 なるほど!これは知らない人が突然渡されたらちょっと使い方が分からないかも!?今時、文具店の人でも使い方を知らない人が多いはずです。それに、殆どがお父様やおじい様の形見の品ということで、説明書や付属品が見当たらない方もおられました。

このパイロット漆塗り万年筆ですが当時は、値段が確か1本10万円。漆黒と朱漆の種類ありました。今現在、「ナミキ」ブランドとして生産されているモデル(FNF−15M 15万円)のご先祖にあたりますが、キャップを飾っている金リングの有無など、デザインが一部異なるだけで、仕組み的にはほぼ同じものになります(因みにペン先はかつては14金でしたが、現行のものは18金ペン先になり、形状は同じですが刻印やデザインが異なります)。 また、これと同じボディーに蒔絵を施した高級モデルも昔はパイロットブランドで販売されていました。 先日も「親の形見の品で、桐箱に入った蒔絵の大きな万年筆をもらったがどうやって使うのですか?」とご質問いただきました(汗)。一応、操作方法や仕組みについて解説したんですが、「確かに万年筆として使えるんですけど(笑)、流石にそれは使わずに鑑賞するだけにとどめられたらどうですか?」と申し上げました(笑)。ご本人も納得しておられました!(笑)  ただ、無地の漆塗りモデルはかなり大型のサイズとは言え、実際にインキを入れて使っておられる方が多いので、ご自宅でもし発見されたら一度チャレンジしてみてくださいね!

モノはと言うと、だいたい下の写真の様な感じ。この写真は現行のナミキブランドFNF−15M朱漆のものなので、キャップに金色の2重リングが付いていますが、昔のパイロットブランドのものはそれが無く、もっとシンプルなデザインでした。 いかがでしょうか?コレに似たペンがご自宅に眠っていませんか?(有ったら羨ましいなー)  因みにボディーは最古の合成樹脂の一つで高級万年筆の素材として珍重されているエボナイト製、それに国産の純良な漆を幾重にも塗り重ねては磨くことを繰り返して作られる、蝋色(呂色)漆と言う技法で塗られた正に傑作です! 生産数量も少ないですので、お持ちの方は是非大切になさってくださいね!

パイロット ナミキ万年筆 漆コレクション  パイロット ナミキ万年筆 ウルシコレクション
パイロット製のインキ止め式万年筆。 写真はナミキ漆コレクション朱漆。


で、使い方についてですが、下の写真をご覧下さい。これも古いパイロットブランドの写真が無いので、ナミキのものですが・・・。それとあんまり良い写真が無くて申し訳ございません。 順を追って説明しますね。先ず第一に、ペン先が付いている首軸と言う部分をネジって軸から取り外します(キャップを閉める為のネジが切ってあるあたりにつなぎ目がありますので、そのあたりを目安に・・・。ちょっと固いかも知れませんが焦らず力を入れて緩めましょう! おっとこれは当然ですが、使用中で中にインキが入っている場合にはペン先を上に向けて開けないとインキがこぼれ出てきますのでご注意を!

パイロット製インキ止め万年筆の首軸  パイロット製インキ止め万年筆の軸内部
左の写真がペン先の付いた首軸。内側はこんな風になっています。右は首軸を外した軸です。

で、上の写真の様な状態になりましたでしょうか? ここで一先ずペン先の方はどこか転がらない安全なとろに置いておきましょう! 次はいよいよインキを入れます。 上の写真(右)の軸にスポイトを使って直切インキを入れていくのがインキ止め式です。軸の中に黒い円錐形の部品が見えているはずですが、入れるインキの量はだいたいその部品の下あたりまでインクの液面が見えればOKです!あんまり沢山入れ過ぎない様に注意しましょう。 因みに、後でインキの色を変えたり、インキを抜いて洗う場合は、このスポイトでインキの代わりに水を入れて指や手の平で軸に蓋をして何回か軽く振ってください。これを何回か繰り返して水にインクの色が残らなくなったらほぼ洗浄できていますので、後は何度か水道水ですすいでよく水を切って乾かせばOKです。 漆塗りに関しても多少インキや水がかかった程度では全く問題ありませんので、慌てずさっと軟らかい布などで汚れをぬぐって綺麗にしておきましょう!

  Namiki(ナミキ)万年筆のスポイト
元々は、こんなスポイトが付属しています。ですが、どんなスポイトでもOKです(笑)

で、インキを入れるスポイトですが、本来は上の写真の様な専用のスポイトが付属しているのですが、意外とこれが紛失してしまっているケースが多いみたいですね! でもご安心を! 付属品は確かにカッコいいですが、ただのスポイトですので、書道用なんかで安く売られているスポイトで十分間に合います(笑)。 パイロットのボトルインキを買ってきたら、おもむろにキャップを開け、スポイトで吸入、先ほどの軸にゆっくりとインキを注入していきます。必要な量が入るまで何度かやりましょう。 この時、慣れないうちはペンをまっすぐ立てた状態で色々と作業をするのが難しいと思いますので、何かペン立てか何かを利用して安全に作業してくださいね! さてさて、インキが入ったら今度は、再び首軸(ペン先)を取り付けてしっかり締め付けます。緩いとインキが漏れてきますので、ここである程度しっかり取り付けておきましょう! これでインキの補充は完了しました!


で、ここからが少し大切です(そんな大げさなことでは無いですが)。 実は、インキ止め式万年筆が何で「インキ止め」と呼ばれているかと言いますと、その名の通り、字を書かない時は、軸のインキタンクからペン先のある首軸までインキが流れない様に、栓がされているのです。 先ほどインキを補充する時に軸の内側に円錐形の部品が見えましたよね!実はこの部品が首軸側のインキの流れる溝にピタッと蓋をしてインキが流れない様に設計されているのです。 ペンを使わない時に不用意にインキがこぼれない為の工夫なんですね。 じゃあ、いったいどうやって字を書くの?ということになりますが、インキ止め式万年筆で字を書く際には一つの儀式をやっていただく必要があります(笑)。それが下の写真の操作になります。

ナミキ万年筆のインキ止め機構  ナミキ万年筆の尻栓
尻軸を回すと・・・右の写真の様に少し開くのがお分かりですか?

インキ止め式万年筆では、筆記時に尻軸を回転させて緩めることで、首軸に蓋をしていた先ほどの円錐形の駒が離れ、インキタンクからインキがペン先側に流れる仕組みになっているのです。 尻軸を開く間隔はだいたい上の写真程度でOKです。使い終わったらまた忘れずに尻軸を閉めておきましょう。 ちょっと一手間かかりますが、それがインキ止め式の趣のあるところで魅力もであります。

パイロットのインキ止め式万年筆には黒や朱の漆塗りのものや、様々な蒔絵が施されたものがございますが、どれもインキ止め式は尻軸(軸の後端)が上記の様に緩む設計になっていますので、それでインキ止めと判別できるかと思います。首軸を外した時にどう考えてもカートリッジが使えそうにない形状になっているので分かると思いますが(笑)。今となっては大手メーカーさんではほぼパイロットさんくらいしか生産されていない方式でパイロット社でも現在はナミキのエンペラーコレクションと言う大型の蒔絵シリーズと漆コレクション(50号ペン先)だけがインキ止め式になります。そもそもインキ止め式だと知らないと、どこをどうやって触って良いのかも分からず心配ですよね!一応このコラムを参考にしていただければと思います。自信の無い時はあまり無理をせずに近くのお店かパイロット社に確認された方が良いかと思います。

ナミキ エンペラー 月夜に兎 ナミキ 漆コレクション万年筆  ナミキ エンペラー鴛鴦(オシドリ) ナミキ エンペラー沈金コレクション 龍
上の写真の製品も全てパイロット社のインキ止め式万年筆です。使い方も共通です。
蒔絵は実際にインキを入れて使われる方は少ないと思いますが(笑)

それから、これらパイロット製のインキ止め式万年筆は全て、高級な漆塗りか、蒔絵によって仕上げられています。漆塗り製品の保管にも少し気を使ってくださいね。 パイロットの漆塗りは純良な国産漆で仕上げた最高級品ですので、非常に耐久製に優れていますので、適切な使用と少しの気配りで末永くその美しさを保つことが可能です。漆塗りは本来、非常に丈夫で傷や湿気、酸にも強い優れた性質を持っていますが、乾燥と直射日光には弱い性質を持っています。極端な乾燥や紫外線は漆塗り面を劣化させることになりますので、その点だけご注意いただければと思います。また、蒔絵は複雑な技法を組み合わせて作られていますので、特にご注意下さい。 使わない時は柔らかい布などでくるんでいただき、できれば付属の桐箱に入れて保管して下さい。そうすれば末永くその美しさを保つことが出来ます。


以上、ざっとこんなところでインキ止め式万年筆をお使いいただけるのではないでしょうか? インキ止め式はエボナイトが万年筆の素材として多用された頃(大正時代!?)に多く見られた方式で、正直、今ではかなり珍しいタイプの万年筆になります。私もパイロット社製以外のものは詳しく知りません。 ですが、趣ばかりでなく、使わない時はインキが流れない仕組みなど、今の感覚で見ても優れた仕組みになっているかと思います。 パイロットのインキ止め式漆万年筆はどれも50号と言う世界でも有数の巨大な18金ペン先と、蒔絵を施した際に図柄が際立つ大きなボディーですので、普通の万年筆と比較すると冗談?(笑)かと思うインパクトのある万年筆です。しかし、実際手にとって字を書いてみるとこれがかなり癖になるそうです(笑)。


※こちらに掲載の商品は、スミ利では現在取り扱いしておりませんので、ご了承くださいませ。

2008年3月12日  スミ利文具店 藤井稔也



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