コラム パイロットのインキボトルについて
スミ利では今まで万年筆の通販は、プレラやハイエース、ペリカーノJr.といった低価格品をお求めの方が殆どでした。高級品はどうしても通販では心配な方が多かったのだと思います(ただ、限定品や超高級品に関してはこの限りでは無く、逆に通販の方が多い時もありますが)。 ところがこの1年ほどで1万円〜5万円クラスの高級万年筆を通販でお買い上げ下さる方が急に増えてきました。通販の場合は試筆ができないなどの心配がありますが、お客様からは「実際に試筆しても素人にはよく分からないので・・・結局お店の勧めるペンを買った」とか「試筆の際、緊張して何を確かめてよいのかわからなかった。」と言うご意見を寄せていただき、「通販で試筆できなくても信用できるお店なら安心して買える」とか「スミ利さんでお願いして良かった」などと有り難いメールをいただいたりして感激しています。
今は、必ずしも万年筆が身近な時代ではありませんので、通販で万年筆を手に入れたいと思う方も増えて当然ではないかと思います。また、実際のところ試筆の必要性をあまりお感じにならないお客様が通販以外でも(ご来店いただくお客様にも)多くなった気がします。ですから、我々文具店でも従来の対面販売に対して、通販を一段下に見ていては駄目な時代なんだなー、と実感しています。たいしたことはできませんが、特殊なものを除き、出荷する万年筆は全て私がペン先、ペン芯の具合を検品・確認してお届けしています。少なくともこれで「インクが出ない」とか「インクが漏れる」「ペンの滑りが極端に悪い」といった不良品をお届けする確率は殆ど無いと思っていますが、今後も通販で万年筆を購入される方の心配を減らし、安心して購入できる工夫を考えないといけないなー、と思っている今日この頃です。
パイロットのインキボトルは、確かにデザインがつまらないかも・・・でも。
さてさて、いきなり話が本題からそれましたが、実はそんな万年筆の通販をしていてちらほら耳に入る様になった気になることが・・・。それがパイロットのボトルインキについてです。以前、セーラーの顔料インク「極黒」のページで注意点として「万年筆のインキは単なる色つきの水では無い!」と言うことを書いたのですが、インキはそれ自体なかなか奥が深く、マニアの間では色々とインクの色や万年筆との組み合わせを研究されている方がおられます。ですが、今回は一先ずインキ自体はおいて、ボトルのほうについてのお話です。
実は、私は昔からパイロットのボトルインキ(ブルーブラック)を愛用しており、店頭での試筆用としてもパイロットのブラックを主体に使っています。これは勿論、インキの成分が優れていることや試筆後の洗浄性が優れいてるのが主な理由なのですが、子供の頃からインキ瓶といえばパイロットのコレ!と言うほど身近な存在だったので、そのデザインについてあまり深く考えることは有りませんでした。まあ、モンブランの独特なデザインに憧れたりはしましたが。基本的にはインキ瓶はパイロットでした。ただ実は、パーカーのクインクのボトルとインクも好きでパイロット以外ではパーカーもよく使いますが(昔はパーカーのクインクは値段ももっと安くて国産品よりもお買い得だったんですよねー)。
そんな折、お客様からも「パイロットの万年筆にコンバーターをつけて、ボトルインクを使いたいのですが、パイロットのボトルはデザインが非常につまらないので・・・。他のメーカーのインクを使っても問題ないでしょうか?」といったご質問をいただきました。また他の方からは「こだわりの文具でデスクトップを飾るのに、パイロットのボトルはちょっと・・・」という声も。うーん。私自身、前々から凄く好きというわけではなかったですが、それなりに満足して使っていたパイロットのボトル、今のユーザーからは評判悪いんですね! 確かに言われてみるとこのボトルは他の海外メーカーのものと比較して容量も小さく、デザインも正直言って普通過ぎて全く面白味がない・・・。昔はそれほど気にもならなかったのですが、最近はお洒落なデザインのボトルも増えてきたので、ちょっと気になってきました。また、パイロットのボトルはキャップが固く閉まってしまうと、開けるのに苦労したり・・・。ちょっと使い勝手も悪いこともあるんですね。その点パーカーなどはボトルの口も広くてキャップも開けやすく非常に便利ですよ。
愛用のパイロットインキ コンパクトなので机の隅に待機させるのに最適!
でもでも!パイロットのボトルは伝統ある優れたデザインなんですよ!! そもそもこのボトルは万年筆が今の様に趣味の道具となる以前の、実用品だった頃に活躍したデザイン。カートリッジ式が普及するもっと前から変わらず存在し続ける歴史あるデザインです。また、昔は事務用として万年筆の他につけペン(つけペンは今はコミックなど漫画を描くのに使われています)も広く使われていましたので、このパイロットのボトルはコンパクトで安定感があり、実用本位のデザインなのです。それが、今も全く変わらず販売され続けている奇跡!(パイロットさんには相当なこだわりがあるのでしょうか?)
昔は、会社や学校の事務用として今よりも大量に消費されていました。今の様に1個、2個と言った注文では無く、事務所に10個とか、学校に何十個とか・・・。下の写真(左)に写っている様なボテ箱と呼ばれる配達に使うケースに入れて一度に沢山運ばれました。ボトルは当然ガラス製、中身は液体です。そこで、重要になってくるのは安全に効率よく運搬できるデザイン・・・。つまりパイロットのボトルは必要最低限のスペースに効率よく梱包、収納して出荷(メーカーから小売店へ)、納品(小売店からお客様へ)できる様にデザインされた訳です。実用上の安定性と内容量を確保し、その他には全く無駄の無い潔いまでの実用デザイン。なるほどそう考えると良くできているとは思いませんか?
昔は、大瓶から注ぎ足して使う人も多かった。事務所の定番アイテムでした。
私、藤井はブルーブラックをよく使うので大瓶から注ぎ足してます。ポン酢の瓶みたいですが(笑)。
実は、私も以前からパイロットの人に、このボトルデザインを変えないの?と聞いていました。今は万年筆は趣味性の高いアイテムですので、そのインキボトルも当然時流に応じて洗練されたものが欲しいのは事実です。その後、カスタム823と言うプランジャー吸入式の万年筆が発売された時に、新しいデザインのボトルが登場しましたので、パイロットさんではそれで一先ず仕事は終わったと考えているのかも知れません。 因みにこの新しいボトルは吸入式の万年筆に適した工夫を凝らしたデザインでなかなか良いですよ。ただ、私としてはパイロットのスタンダードは今でもこの30ml入り(INK−30)のボトルだと思っています。因みによく使うブルーブラックだけは、古式にのっとって!?大瓶(INK−350)から注ぎ足して使っています(笑)。ポン酢の瓶みたいでこれまた非常につまらないデザインですがいいじゃないですか!これがパイロットなんですよ(笑)。当たり前過ぎてつまらないと思っているデザインですが、机の上にさり気なく置いておくと結構、様になりますよ。ただ、ラベルのデザインはもう少し努力していただきたいと思いますよ!パイロットさん!!昔のラベルの方が好きでした!(上の左の写真、ボテ箱の前の左端のボトルがちょっと前のデザイン。もっと古いのも持っていましたが水洗いした時に剥がれてしまって・・・)
※2007年12月より新しく、色彩雫(いろしずく)シリーズが新発売されました(追記)。
2007年9月5日 スミ利文具店 藤井稔也