愛用の万年筆


今回は、私が個人的に愛用している万年筆についてご紹介してみたいと思います。実は、以前から私がどの様な筆記具を使っているのか質問される方が多く、一度書いてみようと思っていたのです。そこで今回は万年筆について取上げてみました。他人のペンなんか興味無い!なんて言わずに一度読んでみて下さい。

早速ですが、下の写真が愛用の万年筆です。これは、パイロット社製で今から40年近く前に作られたいわゆる「ビンテージ物」です。うちの店に新品で残されていた奇跡的な1本を発見し、2〜3年前から私が手に入れて使い出しました。とても手に馴染んでいて、ほぼ毎日使っています。最近になってパイロットさんから発売されたシルバーン・シリーズ(¥52,500)もこの万年筆がベースになっています。名入れや記念品向けのシルバーントク(¥52,500)はペン先が14金に変更されたり、クリップの形状等が変更になっていますが、このモデルの直系の子孫と言えそうです。私のは正真正銘のオリジナル、しかも最初期モデル(自慢)!細部の仕様やペン芯の構造、インク吸入方式なんかも今のものとは全然違います。

パイロット シルバーンのオリジナル!   パイロット シルバーン万年筆のオリジナル!
約40年前のパイロット カスタム(エリート) シルバーン万年筆「冬木立」です!当時の価格は破格の¥15,000!

もう少し、詳しく説明しますと、この万年筆は、パイロット社から昭和40年代に発売された「シルバーン」シリーズで、品番はE−1500ST−F(冬木立)と言うモデルです。1968年にパイロットからバランス型万年筆「エリート」と言うモデルが¥5,000で発売されました。その翌年1969年にエリートの上級モデルとして総スターリングシルバー蝕刻パターン万年筆として登場したのがシルバーンです。東京にあるパイロット本社のペンステーションにもこれと同じモデルが展示されています。ペン先にはCUSTOMという刻印があり、スターリングシルバーボディーに緻密なエッチングが施されています。ペン先は大型の18金!発売当時のお値段が、1本¥15,000と言いますから相当な高級品だったことが分かります。エッチングの柄は、他にも数種類有って、私のものは「冬木立」と言う名前がつけられていたそうです(万年筆に大変詳しいお客様、D氏からの情報)。私が発見した当時はもう1本、龍の描かれたタイプも残っていたのですが、こちらは現在D氏ご愛用の1本となっております。また、私のシルバーンはインキ吸入式の初期モデルですが、後にカートリッジ式に変更され、価格も¥17,000になり、最終的には¥20,000で発売されていたそうです。因みに、スターリングシルバーではなく、金属ボディーに総金張りのモデルも同じ価格で発売されていました(その内写真をご紹介したいと思います)。

大型の18金ペン先!細字です。   最近のシルバーンとはクリップのデザインと、キャップ上端の丸みが違います。
現在発売されているパイロット シルバーン万年筆とは、クリップの形状が違うのと、
キャップ上端の丸み(カーブ)が微妙に違います。現行品の方が少し太く丸くなっています。


貴重な1本なのに、私は気にせず毎日ガンガン使っています。スターリングシルバーのボディーには無数の擦り傷がついており、お客様からは「勿体無い!」とお叱りを受けることもしばしばですが、とてもいい味出していると思いませんか?ペン先はとても贅沢に18金を用いた大型タイプです。ハート穴も丸型ではなく、長方形の珍しいタイプです。字幅は細字ですが、驚くほど滑らかに書けます。ペン先のしなり具合も柔らか過ぎず、硬すぎず、絶妙です!当時の職人の仕事の丁寧さに本当に関心してしまいます。 実際使っていて分かるのですが、筆圧にも強く耐久性も見事です。がたつきや緩みも無く全くくたびれてこないのが気に入っています。


   
コンバーターではなく、固定式の吸入機構です。これがなかなか良くできています。


インクは勿論、吸入式です。カートリッジも使えるコンバーター方式ではなく、吸入専用になりますが、先端の透明部分を数回プッシュすることによって徐々にインクが吸入される仕組みで、意外と沢山のインクを吸入することができます。この吸入方式はゴムベローズ押圧式と言うのだそうです。今のパイロットのカスタムに採用されているコンバーター70のご先祖と言えそうですね。こちらの方がプッシュ操作が軽くて私は気に入っています。因みに私の吸入機構はまだまだ現役ですが、これが故障した場合でも、何とか修理可能です。もし同じペンをお持ちのお客様でインク漏れにお困りの場合は、ご相談いただければ、約¥5,000程度でパイロットの万年筆工場で修理可能な場合があります(要見積り)。 インクは、パイロットのブルーブラックを使用していますが、ほぼ毎日使っていることと、古いインク吸入機構の故障を防ぐ為に、定期的な洗浄はあえて半年に1回程度としています(私の場合は全く問題無いです)。
※パイロットでのメーカー修理対応は2005年時点での状況です。 メーカーさんでの部品在庫状況によっては修理をお受けできない場合がございますので、先ずはお問合せ下さい。

それから、万年筆屋が言うのも何ですが、絶妙なセッティングとペン先の馴染み具合をキープする為にあえて、分解やペン先調整は一切行いません!実際分解は簡単なのですが、製造後かなりの年数が経っているので、特に樹脂製部品やゴム製部品が分解時の僅かな負荷でも破損してしまう危険性が有るからです。さらにペン先の調整(修正)も滅多なことが無い限りやりません(笑)。私の場合、やろうと思えばすぐにルーペを取り出してできるのですが、面倒くさがりなので!?「ん?ちょっと引っ掛かる様になったかな」と思っても、そのまま使い続け、毎日書くことで自然調整!?させてしまいます。冗談みたいな話ですが、しなやかな18金ペン先なので、これでほぼ毎回滑らかな書き味が回復します。流石に14金ペン先や18金でもハードなタイプはなかなかそうもいかないのですが。メーカー出荷段階できっちり「標準」が出せているペンは、うっかりペン先を曲げでもしない限り調整など要らない!と言うのが私の考えです。

以前、古いパーカーをお使いのお客様から、インク吸入機構のゴムに穴が空き、インク漏れすると言う事で、メーカー修理を依頼されたことがあります。良く見るとペン先も長年の使用でクリアランスが大きくなりすぐにポロッと外れてしまいます。ところが、既に30〜40年前の代物で、メーカーでも修理不可能と言われ困りました。結局、コンバーターは諦めてもらい、カートリッジ式として使ってもらうことにして、ペン先の方はうちでパーツを加工して何とか字が書ける様に修理したのですが、後で聞くとこのお客様はご自身で月に2回ほど簡単な分解をして丁寧に洗浄されていたとのこと。あまり丁寧に洗いすぎるのも良くないですね。万年筆を甘やかさず時には大いなる親心で厳しく鍛えてやることも必要です!(笑) 

   
「冬木立」柄のスターリングシルバーボディーが自慢です。丸いデザインも気に入っています。


さてさて、最近になってパイロットさんの展示会で、新しいシルバーン・シリーズの万年筆(私の持っているタイプの復刻モデル!?)を試し書きさせてもらえる機会がありました。何しろ今のペンは相当なご老体なので、新しいシルバーンとかも気になるな!等と思いつつ書いてみたのですが、結論としては「当分、今の万年筆を大事に使おう」と言う事になりました。いやいや、新しいシルバーンが悪いと言っているのではありませんよ!ただ、最近の新しい万年筆はどれでもそうですが、昔の万年筆と比べると強めのバネ(復元力)を持った硬めのペン先に設計されているのです。これは筆圧が強くなった現代人向けに多くのメーカーが行っているモデルチェンジです。 昔のペン先はバネが弱くソフトタッチなものが多いので、それに慣れてしまった私にはちょっと違和感が有った分けです(汗)。ただし、万年筆は新品時、ただでさえ少し書き味が硬い訳なんですよ!ですから、しばらく使い込んでペン先を馴染ませてやる必要があります。 ペン芯やペン先等にインクが馴染んでくるとインクの流れもスムーズになって書き易くなるので、元々柔らかタッチのペンとは言え、私の長年使い込んだシルバーンと工場出荷直後の現行のシルバーン(展示品)を単純に比較するのは良くないんですけどね(汗)。

分かりにくい例えですが、楽器のアコースティックギターなんかもそうです。新品のギターは、音が硬くて音量も少ないのですが、使い込んで弦の振動を与えたり、時間が経過して木が適当に枯れてくると、いい音でよく鳴る様になるそうです。ですから、人によっては、新品のギターを買わずに、わざわざ中古のギターを探すそうです。ものによっては中古の方が新品よりも高額で取引されることもあると聞きました。 まあ、中古品は中古品で色々と素人には難しい要素が有りそうですが(笑)。


と、まあ、今回は私の万年筆自慢となりました。でも、本当にいい万年筆なんですよね。次回、以降は愛用のシャープペンやボールペンなんかもご紹介していこうかな、と思っています。





2005年10月22日  藤井稔也



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